ここでは、試みに、インフラ輸出の狙い目となる対象国を絞り込むための基準をいくつか作ってみました。

なお、結論から言うと、このような減点法的な発想で行くと、理想的な国は英国と米国しか残らないということになってしまい、現実的ではありません。ご参考までにということで、どういう項目かをご説明します。

・ 官僚のPPPリテラシーが高い:PPP案件は、官僚がPPPまわりを知り尽くしていないと案件として具体化しません。イギリス、オーストラリアといったPPP先進国を例外とすれば、日本を含めて、ほとんどの国では、官僚のPPPのスキルを訓練している最中です。中央政府にはPPPのスキルが高い官僚がいても、地方政府ではまだまだというところもあります。

・ 国際標準に則ったPPP法が整備されている:国連系のUNCITRALやEUのPPP推進部門が各国で整備すべきPPP関連法のガイドラインを出しています。それに基づいた法整備がなされていれば、PPP案件に参画する民間企業の権利が守られやすいと言うことができます。しかし、現在はほとんどの国において、法整備に着手したばかりという状況にあります。

・ 政治家・官僚の腐敗文化がない:英語で”corruption”と言いますが、贈収賄の慣行や、民間企業への権益の譲り渡しと引き替えに官僚が見返りを要求するなど、そうした官僚による不正行為のカルチャーがあるかないか、ということも重要です。一般に、アジアではその種のカルチャーが残っていると言えましょう。一方で、国際的なPPP標準の普及を促している諸団体では、そのような”corruption”が発生しないように、入札プロセスの透明化を図っています。

・ 関係省庁、地方政府にまたがるPPPワンストップ窓口がある:最近では、PPPに注力する中央政府は、PPPに参画する民間企業への便宜を図る意味で「PPPワンストップ窓口」を作る気運が高まっています。どの国でもPPP案件に関わる場合には、2つ以上の省庁や中央/地方政府とやりとりをする必要があるのが普通ですが、その効率化を図るためです。

・ 国際企業によるPPPコンセッション受注の前例が複数ある:国内企業ではなく国際企業による前例があるということも、これから参入する日本企業にとっては心強い条件です。事例が少ない国では、前述の官僚のスキルがまだまだ、ということの他に、何らかの原因も考えられます。

・ その国を得意とする法律、ファイナンスのアドバイザー(国際法律事務所)が存在:前述したように、PPP案件の入札に関わる段階で、また、競争入札に勝った後では特に、法律およびファイナンスのアドバイザーの協力を得ることが不可欠になります。一般的に国際的なPPPの世界では定評のある法律事務所が20〜40程度存在しており、そうしたところに委託すれば済むわけですが、PPP事例がまだ少ない国では、その国の法律事情に長けたアドバイザーが存在していない可能性もあります。その点、見極めが必要です。

・ 日本政府のインフラ輸出政策の重点国となっている:政府の支援策を受けるには、重点国として指定されたインド、インドネシア、ベトナムであれば物事がスムーズに行くことが期待されます。一方、他の国々でもJETROや各大使館に配属されたインフラプロジェクト専門官などのチャネルがありますので、必ずしも支援対象が重点国だけに限定されるとは考えなくてもよいと思います。

・ JETROの出先事務所等、日本系の情報チャネルがある:何も伝手がない国では動きづらいと思いますので、政府系のチャネルがある国は有利です。JETROの事務所はほぼすべての国にありますが、インフラ案件の情報に強いところと、そうでないところがあるようです。

・ 国際取引において契約を守る文化がある:日本企業が多数進出していて、その国固有のやり方が理解されている国は別として、そうでない場合は、法治国家であるかどうか、外国企業が不利になるような商慣行が行われていないかどうかは、やはり確認してみるべきポイントだと思います。

●インドはどうか?

インドはPPPにかなり力を入れている国であり、また、膨大なインフラ整備需要がある国でもあります。プロジェクトファイナンスの融資行として、欧州の銀行を差し置いていつもトップに立つのはState Bank of Indiaであり、インド国内で相当数の案件がPPPのスキームで動いているものと見られますが、その割に、国際的なプレイヤーの参画が聞こえてきません。

日本企業が参入する場合は、まず、日本政府が手がけているデリー・ムンバイ間産業大動脈構想の枠内で関わっていくのがよいと言えるでしょう。

なお、インドは、中央政府と地方政府の間には開きがあるとよく言われています。地方政府が動かす案件では、その地方政府なりのクセ(官僚主義の地方色)のようなものがハンドリングしにくいようです。

デリー・ムンバイ間産業大動脈構想に限っては、日本政府も設立に協力したデリー・ムンバイ産業回廊開発公社(Delhi Mumbai Industrial Corridor Development Corporation Limited)が一種のワンストップ窓口となって、複数の官庁や中央/地方政府とやりとりしなければならないところを、集約的に対応してくれるとのことです。

2012年7月22日後記:インドについては、JICAがインドのPPP状況について詳細な調査を行った報告書が公開されており(2012年3月公開)、それをご覧になるのが一番の早道です。

インド PPPインフラ事業への外国直接投資の促進に関する基礎情報収集調査報告書

●ベトナムはどうか?

ベトナムは、PPPに取り組もうとはしていますが、官僚のキャパシティ不足があるのか、まだまだ追いつかないという状況のようです。

発電分野は例外であり、国際的なプレイヤーが参画するBOT案件が動いています。

また、JICAが、従来のODA的な枠組みのなかで行う水関連のプロジェクトが複数、動いています。

潜在的な案件リストは、上記のように、JETROサイトで得られます。これにより、案件の傾向性を把握して、自社に適した領域があるのであれば、経産省貿易経済協力局資金協力課、JETROのベトナム事務所、JICAなどに問い合わせてみるとよいでしょう。

PPP案件というよりも、従来型のEPC案件としてアプローチするのが実際的かも知れません。

●インドネシアはどうか?

インドネシアも膨大なインフラ整備の需要を、特に外国企業が関わるPPPによって満たそうとしています。

政府の体制づくりも活発に行われているようですが、現時点では、インターナショナルスタンダードによるPPP事例がまだありません。しかし、もう間もなく数件が成立する見込みです。

日本政府は、インドネシアのインフラ整備支援の一環として、重点的に整備すべき「インドネシア経済回廊」の計画策定に携わっており、先行プロジェクト群として、「首都圏投資促進特別地域」を指定し、2012年初頭にマスタープランが完成する予定です。そのマスタープランに含まれる案件20〜30件程度では、日本企業の参画が有利になる可能性があります。しかし、競争入札では外国企業が排除されるわけではありません。

マスタープランづくりは、JICAが日本のシンクタンクに委託して作成するようですので、JICAに進捗状況を確かめるのがよいでしょう。(5/20付報道で三菱商事など複数企業のコンソーシアムが受注 http://bit.ly/k80EPi )

2012年7月22日後記:インドネシアについては、当セミナーの講師を務めた弊社取締役・今泉大輔が2012年9月にインドネシアの運輸省、国家開発計画庁、アジア開発銀行、JICAジャカルタ事務所などを訪問先とする視察を実施しており、そこで多くの知見を得ました。ただし、報告書については視察参加者のいわば専有物となっており、ここで公開をすることはできません。ただし、得られた知見の一般的な事柄については、対面ベースでご相談可能です。

関連情報:[告知] インドネシア・インフラ案件視察のスケジュールが決まりました

なお、以下も参照。

日本政府が推進するインドネシアのインフラ整備プロジェクト、予定通りの進捗を現地紙が好感

インドネシアのインフラ整備動向、現時点のまとめ

インドネシアのインフラ整備(PPP)の全体像が明らかになってきました

インドネシア初のPPP案件(火力発電)をJパワー・伊藤忠コンソーシアムが落札

インドネシア政府が総事業費534億ドルのインフラプロジェクト79案件を公開

[メモ] インドネシアが2025年までにGDPトップ10入りを果たすには

[メモ] インドネシア政府マスタープランで明らかになった経済回廊の開発詳細

インドネシア・西ジャワ州の地熱案件

インドネシアのインフラPPP案件でわかったこと

●タイはどうか?

タイは、インドネシアなどのアジアでPPP推進に積極的な国に比べると、PPPへの取り組みが弱いと言わざるを得ません。これはおそらく、タイでは、インフラ整備需要が急速に高まる時期を過ぎていて、基本的なインフラが足りているということ、および、タイ国内の金融機関、投資家、建設会社が、国内のインフラ整備をカバーできているからではないかと推測されます。

一方、大都市であるバンコクでは、市として、都市交通、上下水道などで、PPP実施を検討しています。他方で、アジア固有のcorruptionの土壌もあるという話を聞きます。

おそらくは、地元で有力な企業(華人資本)などとがっちり手を組まないと、インフラ案件をスムーズに進めることはできないという状況なのではないでしょうか。

 

●トルコはどうか?

トルコは思いのほか、と言っては語弊がありますが、PPP案件に取り組む国としては、かなりよいと思います。

トルコは、国家レベルのインフラPPPプロジェクトではかなり長い歴史を持っており、もっとも古いものに1874年の地下鉄建設があります。オスマントルコの時代です。国王がフランスの民間事業者にコンセッションを与えて42年間営業されました。いわゆるBOT(Build, Operate, Transfer)であり、その後、地下鉄資産はトルコに譲渡されています。

この歴史の古さをベースに、現在、多数のインフラPPPプロジェクトが動こうとしています。また、受注する民間企業が煩雑な思いをせずに済むように、PPP関連法も急ピッチで整備されています。

こちらの資料で、トルコのインフラPPPのプロジェクト動向が把握できます。

Three Centuries of PPP Experiences of Turkey 

日本政府との間でも、すでに原子力発電の商談でパイプができているので、JETROや国際協力銀行を経由すれば、アクセスがしやすいものと思われます。

また、インターナショナルなプレイヤーに対してオープンしている案件が複数あるようなので、まずは独自にアプローチをして、入札の準備を進める段階で日本政府の支援を仰ぐという手もあります。