プロジェクトファイナンスがクロージングするまでの過程を簡単にご説明します。上段は、政府側から見たプロセス、下段は企業側から見たプロセスを記しています。説明が必要な箇所のみご説明します。

「民間からの提案(Unsolicited Proposal)を検討/対象プロジェクトを選定」

PPP案件は何もないところから始まります。政府側は、民間から提案を持ってきてもらって、そこに案件ポテンシャルがあることを認識するか、あるいは、ある土地にインフラ整備のポテンシャルがあることを認識し、××××地区の××××案件という風に名称を与えて案件を特定する、ということを行って初めて、それが案件として動き始めます。

政府側が白紙の状態であるところに持ち込まれる民間からの提案は”Unsolicited Proposal”と呼ばれています。これは最後の方で詳しく説明します。

 「FSを実施」

案件が競争入札にかけられるまで、政府側でもかなりの作業を行わなければなりません。そのもっとも手間ヒマがかかるものがフィージビリティスタディ(FS)でしょう。すなわち、案件が、商業的に成立するものになるのかどうか。仮に成立しないものであるなら、民間企業が入札に現れませんし、仮に競争入札が成立したとしても、銀行などが融資しません。FSは、その案件が動かせるのかどうかを見極める重要な作業です。

 「ファイナンシャル、リーガル、テクニカルのアドバイザーを選定」

FSでよい結果が出れば、プロジェクト実施が決定されます。

その後、競争入札にかける前に、フィナンシャル、リーガル、テクニカルのアドバイザーを選定し、競争入札の準備をします。そして、PPP案件のデザインを行います。

 「まず入札資格者を絞り込む」

入札資格者を絞り込むのは、落札しても実施するだけの力がない事業者を排除する意味もありますが、相手を絞り込んだ上で、プロジェクト実施に関わる、より密度の高いコミュニケーションを行う目的もあります。

一部の競争入札では、入札資格者を絞り込んだ段階で、プロジェクトの詳細に関する交渉が行われ、何度か交渉を重ねているうちに、双方の落としどころが見えてきて、提案内容も、落札価格も自然と決まる、というやり方が行われています(欧州では多いそうです)。交渉の当事者が多いと現実的にプロセスが進められないので、予め3者などに絞り込みます。

日本のメーカーの場合は、インフラ事業に携わった経験がまだないところがほとんどでしょうから、入札資格審査を通るためには、実績のある企業とコンソーシアムを組むことになります。おそらく海外企業になるのではないでしょうか。組める相手を事前に選定しておくのも大事な作業になります。

政府側のプロセスに関してはこれぐらいです。下段の企業側のプロセスについて。

「FA(ファイナンシャルアドバイザー)を交えた事業収支シミュレーション」

これは、政府側から出されたPPP案件の仕様に従って、自らがSPCを設立して事業を行った場合に、どのようなキャッシュフローが出るのかをシミュレーションするものです。FAは、落札後に資金調達が必要になった場合に、プロジェクトファイナンスのクロージングのメドも見据えながら、シミュレーションのモデルの良し悪し、シミュレーションの中身の妥当性、資金調達計画の妥当性などについてアドバイスします。

このシミュレーションによって、入札する金額の幅が見えてきます。

「応札金額の決定、プロポーザルの作成」

政府側は、主には2つの側面から落札者を決定します。落札者を決める基準にどんなものがあるかは、弊ブログの以下でまとめましたのでご一読ください。

インフラPPPプロジェクト公開入札における「事前資格審査」(Prequalification)の審査基準

インフラPPPプロジェクト公開入札におけるプロポーザルの審査基準

発電、海水淡水化といった、プロダクトの良し悪しが単位当たり価格の安さではっきりとわかる場合には、熾烈な価格争いとなります。一方、高速鉄道や空港など価格だけがポイントでない場合には、提案内容やオペレーション遂行能力などが重要な判断ポイントになります。

単位価格でシビアに判断される案件では、SPCで20年といった期間、稼働させてみて、確実にライフサイクルコストが最小であるような製品を持っていれば強いと言えるでしょう。ライフサイクルコストが明らかに高い製品を使う場合には、SPCの収支シミュレーションにも必ずそれが出てきますから、入札価格を安く設定することはできないと思います。

「PF(プロジェクトファイナンス)取りまとめ行による融資準備開始」

日本政府のパッケージ型インフラ輸出政策の下で取り組む場合には、プロジェクトファイナンス取りまとめ行(主幹事行、Mandated Lead Arranger)は、国際協力銀行ということになります。

「PF取りまとめ行によるデューデリジェンス」

PF取りまとめ行は、貸せるか貸せないかの判断をする際に、まず、収支シミュレーションモデルの中身と、そこから出てきたキャッシュフロー(返済原資)とを見ます。そのままでは貸せない場合には、キャッシュフローが増えるような措置を講じるようにアドバイスする、ないしは、SPCへの出資金の積み増しを求めます。また、メザニンファイナンスと言って、返済順位がPF貸出行より劣る(劣後する)融資の枠組みを新たに設定することがあります。その種の作業が必要になると、クロージングまで追加の期間が必要になります。

「PF取りまとめ行による債務保全策の組み込み(リスク配分の適正化)」

債務保全策は「セキュリティパッケージ」と呼ばれています。貸し手の側から貸出案件のセキュリティを高めるという意味合いです。そのままの状態では、政府、スポンサー、貸し手、その他電力などの営業に不可欠な原材料供給事業者といった当事者同士の契約内容は、貸し手から見れば穴だらけであるようです。すなわち、リスクが各所にカバーされない状態で存在しています。そうしたリスクを1つひとつ特定し、適正なリスク配分になるように当事者間の合意を明文化し、スポンサーがリスクを負いすぎないようにする(借り手に過度の負担が及ばないようにする)のがこのプロセスです。

「プロジェクト保険など保険の付保」

こうした保険は、貸し手の側が、債権を保全するために付けるものです。プロジェクトファイナンスでは、返済原資はプロジェクトのキャッシュフローのみ、担保はプロジェクトでできあがる施設および営業権のみですから、債務の支払いが滞ることのないように、ありとあらゆる安全方策を要求します。プロジェクト保険については、後で説明します。

「スポンサー側の出資金払込」

これは、融資が実行される前にスポンサーが行うべき事項です。インフラファンドなど純粋に出資だけで参加するプレイヤーの中には、プロジェクトファイナンスが実行された後で、出資者として参画する(融資が実行されないリスクを忌避)というところもあるようです。

「融資実行」

クローズにあたっては、出資者側が先に出資金を払い込んでいること、プロジェクト保険などがすべて契約できていること、関連当事者間の契約書、合意書に加えて、必要な場合には政府の要人の書面による言質などが揃っていること、という具合に満たすべき要件がかなりあります。