2011年4月に行ったセミナー「インフラ輸出の現実的アプローチ」(新社会システム総合研究所主催、講師:弊社取締役・今泉大輔)の内容を何回かに分けてお伝えします。なお、内容は2011年4月現在の状況に基づいており、現在では完璧に相違している事柄を除いて、他はそのままにしてあります(2012年7月22日記す)。

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「インフラ輸出」というのは、日本政府の造語であり、主には日本の製造業が、海外のインフラ関連事業に進出して製品輸出だけでなく、インフラ事業の運営からも収益を得るのが望ましいという考えから出てきた言葉です。一連の支援方策がすでに用意されています。

「輸出」と名がついているものの、その実際は「投資」に近い性格のビジネスであり、支援対象となっている多くのメーカーにとっては、やや「学習」を要する事業内容だと言えます。

今回のセミナーでは、そういった「投資」的な性格のある「インフラ輸出」に対して、製造業がどのようにアプローチすればよいのかを解説したいと思います。

 

日本政府が推進しているパッケージ型インフラ輸出政策に関連して、これからご説明するテーマは、一言で言うと「コンセッション型のPPP」に関する事柄です。

 

PPP(Public Private Partnership)は「官民連携」と訳されますが、端的には、政府・自治体による民間の資金力を活用したインフラ整備手法だと考えればよいでしょう。

PPPにも色々な意味があり、国によっても、人によっても用法が異なったりします。定義の細かな違いについて説明し始めると、いくら時間があっても足りないので、こと「インフラ輸出」については、「コンセッション型のPPP」に限定されると考えてよろしいと思います。

欧州、米国、アジアのいずれにおいても、インフラ関連で「PPP」と言う時はコンセッション型であり、一種の国際標準となっています。というのも、コンセッション型のPPPでは、国・自治体がうまく民間の資金調達力を活用することができ、民間側でもビジネスとして成立させやすい特性があるからです。

なお、日本の内閣府や国交省が進めている官民連携スキームは「PFI」(Private Finance Initiative)と呼ばれていますが、最近、PFI方の改正で可能になりつつある「コンセッション方式のPFI」が同じものを指します。

「コンセッション」とは、政府や自治体が、民間事業者に対して与える事業の「特別な許可」です。これがあることで、民間事業者はその事業領域における「独占」のメリットを得ます。

また、コンセッションは、「民間事業者がそのインフラ建設に必要な資金を、自らの力で調達する」ということと引き替えに与えられます。インフラを整備する必要があるが政府には資金がない。そういう場合に活用されるのがコンセッション型PPPです。民間は自らの出資やプロジェクトファイナンスによる資金調達の責務を負います。

なお、似た意味の言葉には「BOT」(Build – Operate – Transfer)、ないし「BOOT」(Build – Own – Operate – Transfer)があります。これはいずれも、民間企業が政府・自治体からコンセッションをもらって、インフラ設備を建設(Build)し、20年といった契約年限にわたって運営(Operate)し、その後、当該施設を政府に譲渡(Transfer)する、というインフラ事業形態です。これには民間側の資金調達も含まれます。中身はコンセッション型PPPであり、特に「Transfer」の部分を明示した用語だと考えればよいでしょう。

これは、PPPの各タイプを契約の長さで分類した図です。コンセッション型PPPは、契約年限が15〜30年と長期にわたります。

この年限の長さは、インフラの建設に必要な初期投資にかかる資金の5割〜8割程度を銀行団(シンジケート)によるプロジェクトファイナンスで調達した場合に、返済に15年〜25年といった長い期間がかかることを反映しています。インフラは数百億円、数千億円規模になるものも少なくありません。場合によっては兆円単位のものもあります。

PPPを実施する政府側では、「こうした巨額のファイナンスを行うにはコッセンションが有効な期間を長くしなければならない」と考えて、こういう長期の年限を設定します。

欧州で民間企業が太陽光発電所を建設した場合に、有利な価格で売電ができるフィードインタリフ制度が普及していますが、あれも、25年といった長期にわたって固定価格が保証されます。それもまったく同じ理由で、太陽光発電所の建設資金をプロジェクトファイナンスで調達した場合に、収入が保証されている年限がそれだけ長くないと返済ができないので、25年といった年数になっています。

インフラ分野のコンセッション型PPPが、受注する企業にとって、なぜ有利なのかという基本事項を確認しておきます。

一般に、政府・自治体が権益を持つ鉄道、有料道路、空港、港湾、水といったインフラは、その地域や事業領域において独占的に存在しているものであり、市場競争とは一線を画した位置づけにあります。従って、いったん受注することができれば、独占の優位性を享受することができます。

また、一般的なPPP案件では、正式な入札に先立って、事前入札資格審査(Prequalification)があります。これを通過するのもさほど簡単なことではありません(自社に実績がなくとも、実績のある企業とコンソーシアムを組めば通過可能です)。どの企業も取り組めるものではない=競合が少ないという特性があります。

 

案件の対象となるインフラは、国・自治体が受託者に対し使用料を支払う「サービス提供型」か、エンドユーザーが受託者に対し利用料を支払う「独立採算型」かの違いはあるにせよ、安定的にキャッシュフローを生むことが想定されています。これも、損益分岐を越えるまで種々のマーケティングが必要な、ごく一般的な新規事業と比較すれば大きな優位点です。

インフラ需要は人口動態の影響を大きく受けます。まだまだ人口が増えるインドなどのアジア各国では、交通、物流、エネルギー、水などのインフラの大きな新設需要があります。また、世界の新興国では都市化も急ピッチで進んでいます。この都市化もまた、エネルギー、水などの新たなインフラ需要を呼び起こします。インフラは今後10年〜20年にわたって確実な成長が見込まれる市場だと言うことができます。

インフラPPP案件の競争入札を経てコンセッションを受けると、その後、15年〜30年といった長い契約に基づくオペレーションに入ります。これを「長い」と見ることもできますが、一方で、一般的なビジネスの世界から見れば、1つの市場で15年〜30年もの長きにわたって安定的なビジネスができるということはあり得ない話であり、やはり優位点として捉えるべきでしょう。

インフラビジネスに取り組むにあたって、1つ心得ておかなければいけないことがあります。それは、インフラビジネスが非常に長期にわたる取り組みを必要とするビジネスだということです。

この世界ではよく「案件形成」という言葉を使います。これはインフラPPPの対象を特定し、そこにビジョンを描き、初期の準備を進め、フィージビリティスタディを行って案件として具現化できることを確認し、そこからさらに民間が参画可能なスキームを作り上げて、競争入札にまで持って行く一連のプロセスを指します。主には発注側の官が行う作業です。この案件形成には、短くても1年程度はかかります。

インフラ案件における大きな初期投資の何割かは、プロジェクトファイナンスの融資によってまかなわれるのが通例です。このプロジェクトファイナンスも、銀行側のデューデリジェンス(案件のキャッシュフロー生成力の精査)や返済を確実にするための「セキュリティパッケージ」(銀行側の用語)の作成、さらには、主幹事行が音頭をとる他銀行の参画などの作業で、融資がまとまるまで(クロージングするまで)短いもので半年、長いものだと2年もかかると言われています。

今回のセミナー用に調べてわかったことですが、ほとんどのアジアの新興国では、インフラPPP関連の法制度を現在、急ピッチで整備しているところであり、これの整備が完了するまであと2〜5年はかかりそうです。ただし、その後にインフラPPPの案件が各国で一挙に開花する可能性があります。従って、今から準備を進めておくと、そのトレンドに乗ることができると思います。

インドでは、これから100万都市に昇格する地方都市が50以上もあると言われています。現在でも40以上あります。このような都市化に伴うインフラニーズを事業として取り込んでいくには、けっしてゆっくりやればいいというものではありませんが、気を長くもって、継続的に取り組むことが必要です。

同じく、人口大国のインドネシアの経済成長もまだまだこれからです。

一部でスマートシティビジネスの動向に関して、「世界ではすでにプレイヤー間の熾烈な競争が起こっていて、すでに日本企業に残された余地はない」かのような言い方がなされていますが、インフラPPP全般で見れば、ほとんどの国で市場はまだ立ち上がったばかりという状況で、これから大きな市場が姿を現します。そうした、これから出てくる大きなパイに向けて、各国の企業が準備を重ねているというところです。日本企業も今から取り組みの準備を始めても、けっして遅すぎるということはないでしょう。