ここからは、コンセッション型PPPの基本的な形を理解するために、商社がたどってきたインフラビジネスの発展の経緯を見てみたいと思います。

80年代とありますが、この年代はおおまかな目安だと思って下さい。以降の90年代、2000年代についてもそうです。

80年代には、現在のようなインフラ分野におけるコンセッション型のPPPは存在しておらず、商社のビジネスも、政府系のプラントに対する機器の納入という、非常にシンプルな形でした。

インフラは、ある意味では利権ですので、政府との関係構築は非常に重要です。商社はこの機器納入のビジネスを通じて、政府との関係を得るようになりました。

 

90年代に入ると、できあがった政府との関係をベースに、機器納入に加えてプラント建設全般を請け負う、いわゆるEPC(Engineering, Procurement, Construction)契約を受注するようになります。

EPC契約では、プラント建設の資金は政府が調達し、政府が受注企業に対して支払います。民間側に資金調達の苦労はありません。EPCだけでも機器納入に比べれば取扱金額の桁が大変に大きくなりますし、非常にすばらしいビジネスです。一方、受注した側は、いわゆる「完工リスク」(納期までに完工しないことで経済的損失が発生するリスク)を負うことになります。

 

 

2000年代に入ると、イギリスやオーストラリアで開発された民間の資金調達力を活用するコンセッション型のPPP手法が中東産油国などにも浸透してきます。媒介になったのは、おそらくは、プロジェクトファイナンスのノウハウを蓄積したロンドンのシティに集う欧州の銀行であったと思われます。ソブリンウェルスファンドの運用などで日頃から付き合いのある産油国の政府首脳に、コンセッション型PPPを伝授したのでしょう。中東産油国のコンセッション型PPP導入は、世界でもかなり早い方です。

コンセッション型PPPになると、当事者の数が大変に多くなります。基本部分を確認します。

コンセッション型PPPでは、競争入札を経て受注したインフラ事業運営者(商社などによるコンソーシアム)はスポンサーと呼ばれ、必ず、特別目的会社(Special Purpose Company)を設立します。そして、このSPCに対して、発注者である政府が 20年といった長い年限のコンセッション(事業権)を与えます。

インフラ建設などの初期投資は、一部はスポンサー(コンソーシアム参加企業)による出資によって、残りは銀行団によるプロジェクトファイナンスによってまかなわれます。

特別目的会社の設立はこのインフラ案件の収支をガラス張りにして、返済をより確実にしたいという銀行側の要請によるものと考えればよいでしょう。プロジェクトファイナンスは、そのプロジェクトが生むキャッシュフローのみを返済原資とし、そのプロジェクトが保有する資産(施設などの有形資産と事業権などの無形資産の双方)のみを担保とするため、それら一切が特別目的会社という形でひとまとめになっていることで初めて、貸出が可能になるというところがあります。

図の中で、特に留意すべき点について述べます。

・ 発注者である政府には、リーガル、フィナンシャル、テクニカルの3系統のアドバイザーがつきます。リーガルアドバイザーは、契約書や合意書の「束」という性格があるコンセッション型PPP案件の法務を受け持ちます。フィナンシャルアドバイザーは、出融資によるファイナンスの枠組みについて、発注者の立場でチェックします。また、提案書のファイナンススキームの妥当性をチェックします。テクニカルアドバイザーは、案件形成段階で入札可能案件として必要事項を整備したり、最終入札における提案書の技術面の精査を行います。政府の人間は、リーガル、ファイナンス、テクニカルのいずれにおいても専門家ではないので、こうしたアドバイザーの関与が不可欠です。

・ 同様に、受注する側にも、リーガルとフィナンシャルのアドバイザーが付くのが通例です。リーガルアドバイザーは、政府との間で、そして貸し手である銀行との間で、契約内容が妥当なものになるように、また不利にならないようにチェックします。また、フィナンシャルアドバイザーは、巨額に上るファイナンスのスキームの設計、プロジェクトファイナンスで融資を行う銀行との実務的な交渉、貸出条件や契約が不利にならないようにチェックなどを行います。

・ こうしたアドバイザーは、国際的なPPP案件で名の通った法律事務所などが存在しており、過去の実績をもとに選ぶのが通例です。どれだけ類似の案件を経験しているかで、アドバイスの内容が決まるところがあるようです。

・ このスキームでは、商社は、機器メーカーやプラント会社を「選ぶ立場」にいます。けっして、どこか1社の機器の納入にこだわっているわけではなく、スキーム全体から生まれる長期の収益の良し悪しに関心があります。つまり、何かを「売る」ビジネスをしているのではなく、この全体的なスキームに「投資」をするビジネスの主体として関わっています。